秋山好古・真之書簡の周辺 その2

 こんにちは。

 佐賀新聞に毎日掲載されている「今日の歴史」(2月4日)に「秋山真之死去」(1918年:大正7年)が取り上げられていました。
 現在、県立博物館で公開されている秋山好古書簡の中に、秋山真之の死去に関する塚原嘉一郎宛の書簡が2点ありますのでその内容を紹介します。

①真之危篤の電報に接しての書簡(県立博物館展示番号:1-6)
 大正7年(1918)2月3日に書かれたもので、(福島県)白河ホテルに滞在していた好古から東京青山北町の嘉一郎宛の葉書です。(原文縦書)
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 電報受領 若急
 変アラハ森山青山等
 ト協議シ処置ス可
 シ 無事旅行中ナリ
     二月三日
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 極めて簡潔な文面ですが、その背景には大きなドラマがあります。
 この時、好古は軍務で白河に滞在していましたが、真之が危篤との「電報」を受け取ります。
 しかし、真之が「急変」=死去した場合は森山(森山慶三郎:佐賀藩士森山武光次男。真之と海軍兵学校同期。最終階級は海軍中将)と青山(青山芳得:真之妻季子の姉婿。最終階級は海軍大佐)と協議して対処するように嘉一郎に指示しています。
 「旅行中」というのは、単なる旅行ではなく、軍務(馬政局及び軍馬補充部臨時検閲官)のための出張中でした。
 この前後の好古の行動について『秋山好古』(秋山好古大将伝記刊行会 昭和11年刊行p337〜339)では以下のように紹介されています。(原文縦書 漢字は一部字体をかえています)
       
 此の検閲中の二月三日、将軍は白河に於て東京の山下亀三郎氏から又となき悲報に接した。それは令弟海軍中将秋山真之氏の病気危篤の飛電であった。「どうも容体がよくない、余程重態のやうだから直ぐ来て貰ひたい」との意味のものであった。植野少将は、
 「細部の査閲は、我々で続行もし、要すれば若干予定を変更しても差支なからうと思ひますから、至急御帰京になつては……」
 将軍は即座に拒絶した。
 「自分は東京を出る時、今日あるを予期し、弟には別れて来たのだ。今帰る必要はない」そして傍の南大佐に「行かぬ、宜しく頼む」の返電を打つことを依頼した。
 翌四日に至つて、真之提督遂に逝去の悲電が飛来したのであつた。併し将軍は官命を帯びてゐる以上、縦令肉親の死なりとも帰宅することは出来ぬと言つて、依然検閲を続けたのであつた。併し令弟といふも、日露海戦に於て、東郷司令長官の帷幄に参じ、赫々たる籌策の功を樹てたる一代の傑将である。事必ずしも私事とのみはいふことが出来ない。
 そこで隋員一同は相談して、専属副官から当時の人事局長白川少将(義則)に宛て、電報でその趣を通報したところが、今度は同局長から将軍に宛て、
 「検閲の方は一時高級属員に代理せしめ、速かに帰京せられるやう、大臣の命によつて伝ふ」
 そこで将軍は初めて帰京することに決し、二月七日の令弟の葬儀に漸く列することが出来たのである。そして葬儀後再び検閲地に赴き、二月十三日の長野種馬所からの検閲を引続き実施したのであった。                                        
 この軍務による出張は、大正7年(1918)1月から3月下旬に及びました。

②残された真之の家族についての書簡(県立博物館展示番号:1-7)
 好古の帰京後直ぐ、恐らく真之の四十九日法要に前後する大正7年(1918)3月28日に書かれ、好古から嘉一郎に渡されたものです。前日の3月27日夜、嘉一郎は好古を訪ねています。
 残された家族のその後のことについて山下亀三郎と相談した結果を嘉一郎に伝えた上で、「細部ノ件ハ山下ト季子青山塚原ニテ定ムル事」とし「関係者以外ハ可成口外セザル事」と念を押しています。
 「山下」は、山下汽船社長山下亀三郎のことです。一歳年長で同じ愛媛出身の山下と真之は極めて親しい間柄だったようで、真之が最期を迎えたのは、山下の所有する小田原の別荘でした。臨終に際して真之は山下に「子供の将来を託し」(『秋山真之秋山真之会 昭和8年刊行 p271)ています。また、真之の三男中は、山下汽船の社員でした。
 手紙の中で、山下と相談した「要点」を嘉一郎に説明するとともに、真之遺族の生活についての考えを説明しています。

・土地の処分や家屋の建築は見合わすこと。
・生活費は、第一銀行に預ける2万円の利息1,200円を充て、株券には手を出さないこと。
・家賃については、好古が毎月30円補助すること。
・扶助料600円余りは、貯蓄して教育基金や臨時の出費に備えること。

 以上のような内容ですが、秋山家の家長としての好古の考えや残された真之の遺族に対する思いが伝わってきます。

 書簡の展示も今月20日までとなりました。まだご覧になっていない方はぜひ県立博物館まで足をお運びください。