郷土研究講座(第1回)を開催しました

 こんにちは。

 7月17日は、佐賀も久しぶりの晴天で、気温もグングン上昇し。翌18日の佐賀新聞では、佐賀市は34.4度と、この夏最高気温だったようです。

 福岡管区気象台は、「九州北部地方(山口県を含む)は、梅雨明けしたと見られます。」と発表。今年の梅雨は雨が多く、佐賀市の降水量は、平年の1.37倍だったようです。

 さて、佐賀県立図書館は、郷土の歴史と文化に関する研究成果を県民の方々に広く紹介し、理解を深めていただくために郷土研究講座を開催しています。昨年度は、「幕末期佐賀藩の情報収集と海防体制」と「幕末明治期の大木喬任日記」というタイトルで講座を開催しました。いずれも、一次資料である古文書に依拠しながら幕末・維新期の佐賀及び佐賀人に焦点を当てたものです。

 第1回目は、昨年から要望のあった佐賀の中世に関する講座を以下のとおり開催しました。

 講師をお願いした貴田さんは、若手の中世史研究者として精力的に学会発表、論文執筆を行っておられます。研究フィールドは、中世の肥前筑後が中心ですが、残された数少ない資料から荘園と社寺の関係を丹念に洗い出し、これまで理解されていた荘園と社寺の関係性にあらたな視点を提示されています。

1 期日:7月17日(土曜日)午後1時30分から午後3時
2 会場:佐賀県立図書館会議室
3 講師:貴田 潔さん(九州大学大学院比較社会文化学府博士後期課程)
4 テーマ:「佐賀平野に残る中世文書の世界−鎌倉・南北朝時代の土地権利証文を郷土資料として読む−」
5 内容
 はじめに、佐賀平野に残された主な中世文書を紹介し、佐賀平野の地域に関する文書の初見が10世紀であり、12世紀後半から良好な中世文書が各地に残されていることを指摘されました。さらに、具体的な土地権利証文(譲状・売券・寄進状)を検討することによって、現代とは異質な土地所有の観念について解明していきたいとのお話しがあり、例示された史料の解読、用語の解説、内容の説明、取り扱われている物件等を丁寧に解説されました。
(1)譲状
・河上神社文書::講衆の地位や土地(小城郡)の所有権を譲渡。南朝側の年号使用。
(2)売券
・光浄寺文書:(みやき町)中津隈荘田地六反を15貫で売り渡し。
・橘中村家文書:(武雄市)長嶋荘田地一町三杖中+畠地を16貫で売り渡し。ただし、将来買い戻す権利は売り主にあり。
・青方文書:(長崎県五島)15歳の犬王という少年を1貫500文で売り渡す。
※人身売買は禁止であるが、この場合、田地一反にも満たない非常に安い値段で売られている。
(3)寄進状
・武雄神社文書:武雄社へ(吉野ヶ里町)石動村の田地10町の地頭職を寄進(奉納)。
・武雄神社文書:畠地(武雄市武雄町富岡)2反余を、同じ人物が武雄社へ寄進すると同時に3貫で売り渡すという、寄付と売却に対する現代人とは異なる感覚がある。
(4)特異な事例
光浄寺文書:(旧北茂安町)中津隈荘の地頭が、売り渡した田地2反を譲り渡すという、つまり、売り渡しても取り戻す権利があるという中世的な所有の観念(本主権)がある。

 以上の史料から、中世社会における土地に対する所有権をはじめとする権利とその行使についての観念、現在の我々の感覚との違い、あるいはこれまで理解が困難であった寄進の実態を解明する重要な視点を提示されました。

 参加者からも、「中世社会の所有観念についてわかりやすく説明してもらった。」、「目からウロコの話だった。」との感想をいただき、大変好評でした。

 また、先日の古文書講座(初級編)では、天保3年(1832)に川副下郷犬井道村の田5段(反)5畝(約1,650坪)を7両で売り渡したことを解読していましたので、時代や場所が異なるといいながら、土地の値段の比較や人の値段に思いを馳せた方もいらっしゃったようです。

第1回郷土研究講座の様子
(写真:第1回郷土研究講座の様子)