【3月11日】県立図書館でのIPM活動を紹介します②

 昨年の東日本大震災から1年が経ちました。
 被災された皆様に心よりお見舞い申し上げます。
 
 〜文化財の保存とIPM
 博物館や美術館などには様々な役割が与えられていますが、その一つに文化財・美術工芸品などの資料を保存する事が挙げられます。
 この半世紀ほどの間、多くの文化財保存施設では文化財を守る為に多量の化学薬剤が使用されてきました。近年、薬剤が文化財に与える影響や環境負荷が懸念される様になり、予防保存や予防環境作りと言われる“Preventive Conservation”を念頭に、予防措置に重点が置かれる様になってきました。
文化財を守る為に使用されてきた薬剤は、日本の温暖湿潤な環境もあいまって、文化財を物理的に加害する要因である昆虫やカビを防除する目的で主に利用されてきました。しかし、残留農薬と同様に文化財資料や収蔵施設の建材に付着残留した薬剤成分によって、文化財取扱者や施設内従事者、そして来館者への二次的な影響が心配される処となりました。併せて、文化財資料自体への影響も考えられ、資料汚損のリスクや分子レベルでの影響などが専門家による積年の研究により明らかになりつつあります。
 そして、文化財燻蒸(註)に長年使用されてきた臭化メチルにはオゾン層破壊物質が含まれていた事から環境に対する負荷が懸念される様になります。折しも地球規模での環境問題は重要な社会的課題となり、国際会議で締結されたモントリオール議定書によって臭化メチルが規制対象となった事は、文化財の薬剤処理依存からの転換に際し大きな原動力となりました。
薬剤を使用する場合は今後も想定されますが、予防環境を整える事によって、頻度を減じ、使用する薬量を減らす事は可能となります。その為にはどの様な事が望まれるのでしょうか。文化財を取り巻く環境は様々であり、文化財自体の組成も資料によって一様ではありません。一般的には、温度・湿度の管理や紫外線による影響を防ぐ事、前述の昆虫やカビによる被害を未然に防ぐ事が要点と考えられています。この様な点を事前に確認し環境の保全が図られる事によって、文化財を守る、と同時に環境や人体にも優しい保存方法への転換になると言われています。
 そこで、IPMの考え方を活用する流れが生まれてきます。予防環境を整える為に総合的かつ複合的に取り組もうと言うものです。この考え方を多くの公共財を所蔵する図書館施設でも取り込まない手はありません。県立図書館をはじめ多くの図書館施設では、本や映像資料などを沢山所蔵しています。もしも資料が傷んでしまうと、皆様に資料を提供する事が出来なくなってしまいます。この為、図書館においても公共財である資料を適切に保存する事が求められるのです。
県立図書館では“IPM”の考え方を所蔵資料の適切な保存に役立てる取り組みを勉強会と言う形でスタートさせました。次回は、始まったばかりの当館の活動を紹介したいと思っています。
(註)文化財専用の薬剤処理で、その一つに燻蒸と言われるものがあります。詳細は、今回紹介致しました書籍の3番目をご参照下さい。
☆県立図書館で見つけてみよう☆ 
 ・『地球環境を守る人々⑥ 地球規模で見る環境問題のまとめデータ』、西岡秀三監修、学習研究社、平成16年刊。
  当館での請求記号は、519/チキ,6となります。
 ・『未来を生きるためのブックリスト① 地球環境を考える』、全国学図書館協議会・ブックリスト委員会編、全国学校図書館  協議会、平成4年刊。
  当館での請求記号は、519/チキとなります。
 ・『博物館・美術館の生物学−カビ・害虫対策のためのIPMの実践−』、川上裕司・杉山真紀子著、雄山閣、平成21年刊。
  当館での請求記号は、069.4/Ka,94となります。