「異聞浪人記」の創作の源??

東日本大震災による被災者の皆様に心からお見舞い申し上げます。

 みなさん、こんにちは。
 
 現在、佐賀県立図書館では、「佐賀が生んだ作家 滝口康彦 〜映画『一命』公開記念〜」を開催しています。

 映画「一命」の原作となったのが「異聞浪人記」という短編です。



 「海外マーケットも視野に入れた映画で、今、<命を懸けて、何かを守る>といったようなテーマを考えた時に、現代劇でやったら、どこか浮世離れした話になってしまう。そんな折に、映画史上に残る名作『切腹』の原作『異聞浪人記』と出会った。
(『一命』公式Webサイトより転載)

と『一命』エグゼクティブプロデューサー中沢敏明氏が語られています。
 小説の発表が昭和33年、一回目の映画化『切腹』が昭和37年、二回目の映画化『一命』が平成23年と、半世紀以上の年を経ながらも古びない、変わらない作品「異聞浪人記」。

 『坂崎乱心』 (滝口康彦士道小説傑作選集)のあとがきに、「江戸時代の記録「明良洪範」中の二百字あまりにヒントを得ました。」とあります。

 『明良洪範』の「浪人の合力の事」という話には、井伊直澄と藩邸で切腹することを乞う浪人が登場します。
 滝口氏が言われたものか断定はできませんので、「異聞浪人記」の創作の源??として、現在、「浪人の合力の事」と、その現代語訳を展示しています。



「浪人の合力の事」現代語訳

 其の頃は浪人が甚だ多く、諸侯のもとへまで合力(金銭や物品を与えて助けること)を頼みに行った。或る日、井伊掃部頭直澄の屋敷へ、浪人が一人来て、「永々浪人であったため、既に渇命(飢えや乾きで命があやうくなること)に及んでおり、切腹をさせていただきたいので、介錯の士を仰せ付けください。」と述べた。直澄はこれを聞かれ、「その浪士は吾家に召し抱えられたいとか大分の合力も受けたいとか内心は思っていても、そうは言わず、わざと切腹致したいと言っているのであろうから、言った通りに、切腹させるがよい。」と云い、その浪人に食事をさせ、切腹をさせた後、直澄は後悔したという。
 又、神田橋御殿へ浪人が押しかけ、「飢えているため、合力してほしい。さもなくば、御門を汚します(切腹します)。」と云ったという。この時屋敷に詰めていた者は、大久保新蔵、伊奈伝兵衛など名高いしれもの(狼藉者)ばかりだったのが幸いであった。「新しく鍛えた刀の試しに、こやつを切って見よう」などと話しているのを、その浪人が漏れ聞き、忽ち迯去したという。これより諸侯へ浪人が押しかける事が止んだという。」


 展示
※『明良洪範』は佐賀県図書にもありますが、国立国会図書館近代デジタルライブラリーでも読むことができます。
http://kindai.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/990298/91

 井伊家は彦根藩の主家です。彦根市でも、この話は知る人ぞ知る話として語り継がれているようです。